近ごろ、「スペシャルティコーヒー」と呼ばれるコーヒーが注目を集めています。
名前の響きからすると、コーヒーの中でもなんだか特別な感じはしますよね。
簡単に言ってしまうと、スペシャルティコーヒーは「味が個性的で美味しいコーヒー」です。
まずは、スペシャルティコーヒーがコーヒー市場でどういった位置づけにあるのかを把握した上で、スペシャルティコーヒーがどんなコーヒーなのか、他のコーヒーと何が違うのかについて、具体的に見ていきましょう!
コーヒーのランク区分
市場に流通しているコーヒーは、大きく4つにランク付けされています。
高いランクのものほど、豊かな味わいがあり高値で取引されていますよ。
スペシャルティコーヒー
トレーサビリティがはっきりしていて、カッピング審査で高く評価された最高ランクのコーヒー豆のこと。
「トレーサビリティ」というのは、なんの品種がどこの農園でどういった生産方法で作られたかといった、そのコーヒー豆の細かい情報が分かる状態を指します。
追跡を意味する「trace」とできることを意味する「ability」をつなげた言葉です。
スペシャルティコーヒーの流通量はとても少なくて、日本ではコーヒー流通量全体のおよそ5%ほどしか流通していないんですよ。
スペシャルティコーヒーについては、このあともっと詳しく解説します。
プレミアムコーヒー
生産地、農園、品種などが特定されていて、品質のよいコーヒー豆のこと。
最近では、スペシャルティコーヒーとの境目があいまいで分かりにくくなっています。
コマーシャルコーヒー(コモディティーコーヒー)
生産地の規格をクリアした比較的質のいい豆のこと。
大量に生産されていて、安定的に流通しています。
スーパーなどの小売店で売られているコーヒー豆は、基本的にコマーシャルコーヒーです。
ローグレードコーヒー
主にインスタントコーヒーや缶コーヒーに加工したり、安価なレギュラーコーヒーに使用する豆のこと。
アラビカ種とロブスタ種のコーヒー豆をブレンドして加工するケースもありますよ。
ローグレードとはいっても、年々その品質はよくなっています。
スペシャルティコーヒーの地位確立
「スペシャルティコーヒー」は、今もなお、まだまだ進化の途中ではありますが、これまでどのようにその地位を確立してきたかを見ていきましょう。
スペシャルティコーヒーの世界的な広がり
最初に「スペシャルティコーヒー」という言葉を使い始めたのは、アメリカのクヌッセン女史だといわれています。
1978年にフランスで開催されたコーヒーの国際会議で、クヌッセン女史が「特別な気象や地理的条件が生み出す独特な風味のあるコーヒー」を指して初めて使ったそうです。
それまでのコーヒー豆の品質を評価する格付け方法には、次のような問題がありました。
- それぞれのコーヒー生産国が輸出する基準として独自に設定していたもので、世界共通ではなく国や地域によって基準がバラバラ。
- 産地の標高や豆のサイズ、欠点豆の有無などに重点を置いていて、等級が高く外見はよくても、それが味覚的においしいとは限らない。味の評価はされていない。
- いろんな農園で栽培された豆を混ぜ合わせて出荷していたので、ある農園がどんなに個性的でおいしいものを作っても、個性が死んで平凡な味わいに。
生産国の等級と格付け方法についての詳しい記事はこちら。
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コーヒー豆の等級(グレード)と格付け方法を生産国別に解説します!
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そのため、消費国は、生産国が行う品質評価に依存するのではなく、自分達がコーヒーに求める、味覚を重視した新しい基準で評価しようと動き出しました。
1982年にはアメリカスペシャルティコーヒー協会(SCAA)が設立され、コーヒーに対する新しい評価基準が作られました。
これをきっかけに、「スペシャルティコーヒー」という考え方が世界中に広がります。
2000年に入ると、コーヒー豆の履歴書ともいえるトレーサビリティに対する意識の高まりと、カッピングでの味の評価が定着したことによって、特定の産地で作られた特定のコーヒー豆の味の評価ができるようになりました。
こうして、個性的で美味しいコーヒー、スペシャリティコーヒーに対するニーズが高まりをみせ、世界の一大マーケットへと成長しました。
コーヒーを飲む側としては、美味しくて個性を感じられるコーヒーを高く評価したいですからね。
これが「スペシャリティコーヒー」の始まりであり、根本にある考え方です。
消費国側の「美味しいコーヒーが飲みたい!」というストレートな思いが、スペシャルティコーヒーを誕生させたんですね♪
スペシャルティコーヒーの特徴
ちなみに、スペシャルティコーヒー協会は、アメリカ以外でも消費国、生産国関係なく設立されていて、その国独自のスペシャルティコーヒーの評価基準を設けています。
それもあって、「スペシャルティコーヒー」に対する定義はあいまいで、きっちりとした世界共通の評価基準があるわけではないんです。
とはいえ、世界の「スペシャルティコーヒー」に対する認識は、ざっくりとはしていますが一致しています。
スペシャルティコーヒーが、他のコーヒーと一線を画す特徴としては、次のようなものがあります。
トレーサビリティがはっきりしている
そのコーヒー豆が、どういった品種で、どこの農園で栽培されたか、どういった生産処理がされたかといった情報が特定できること。
いろんな農園の豆が混ざっていない。
このトレーサビリティに優れているコーヒー豆を、特に「シングルオリジン」と言います。
味がよく、個性的な風味がある
単に美味しいだけでなく、その産地特有の個性をはっきりと感じられるかどうかが重要になります。
カッピングでの評価が高い
カッピングとはいわゆるテイスティングのことで、コーヒーの味わいを客観的に評価します。
味を重視するスペシャルティコーヒーでは、カッピングによる評価は欠かせないものになっています。
欠点豆の混入率が低い
スペシャルティコーヒーには、コーヒーの風味を損ねる欠点豆はほとんど混入していません。
日本におけるスペシャルティコーヒー
日本でも、2003年に日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)が設立され、日本におけるスペシャルティコーヒーの認知度アップに貢献してきました。
日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)では、スペシャルティコーヒーを次のように定義しています。
- 消費者(コーヒーを飲む人)の手に持つカップの中のコーヒーの液体の風味が素晴らしい美味しさであり、消費者が美味しいと評価して満足するコーヒーであること。
- 風味の素晴らしいコーヒーの美味しさとは、際立つ印象的な風味特性があり、爽やかな明るい酸味特性があり、持続するコーヒー感が甘さの感覚で消えていくこと。
- カップの中の風味が素晴らしい美味しさであるためには、コーヒーの豆(種子)からカップまでの総ての段階において一貫した体制・工程・品質管理が徹底していることが必須である。(From seed to cup)
具体的には、生産国においての栽培管理、収穫、生産処理、選別そして品質管理が適正になされ、欠点豆の混入が極めて少ない生豆であること。
そして、適切な輸送と保管により、劣化のない状態で焙煎されて、欠点豆の混入が見られない焙煎豆であること。
さらに、適切な抽出がなされ、カップに生産地の特徴的な素晴らしい風味特性が表現されることが求められる。
長々と書かれていますけど、要は「栽培から抽出まで一貫して適正な管理がされていて、欠点豆のない、生産地特有の風味が感じられる美味しいコーヒー」ってとこでしょうかね。
「From seed to cup」というのは、スペシャリティコーヒーにおいて大切にしている考え方の一つで、コーヒーの木の栽培からカップにコーヒーを注ぐまで一切手抜きがなく適切に処理されることを意味していますよ。
カップクオリティの評価基準
カップクオリティというのは、実際にコーヒーを液体に抽出して味わった時の風味のことです。
日本スペシャルティコーヒー協会(SCAJ)では、このカップクオリティについて、日本人好みの、日本人が美味しいと感じるコーヒーの味を考慮した独自の評価基準を設けています。
これは、欠点を洗い出すものではなくて、そのコーヒー豆のもつ個性や特性を明確にするために行います。
評価基準は、以下の7項目になっています。
カップクオリティのきれいさ
コーヒーの風味に汚れや欠点がなく、栽培地の特徴がはっきりと感じられる透明性を兼ね備えているかどうかを評価します。
甘さ
甘さの感覚は、コーヒーチェリーが収穫された時点で、どれだけ熟し具合が良くて均一だったかが関係してきます。
焙煎したコーヒーに含まれる糖分の量だけではなくて、甘さの印象を作り出す他の成分や要素についても評価します。
さらに、苦味や酸味、渋味などといった甘さを感じにくくさせている要因がないかも評価します。
酸味の特徴評価
酸度の強さではなく、酸味にどのくらい明るさや爽やかさ、繊細さがあるかといった酸の質を評価します。
コーヒーに、爽やかさやキレのない酸味、刺激や劣化、不快さを感じる酸味があってはダメ。
口に含んだ質感
コーヒーを口に含んだ時に伝わってくる、粘り気、密度、濃さ、重さ、舌触りの滑らかさ、収斂性(渋味)といった感覚や触覚を評価します。
コーヒーを口に含んだ時の量感にばかり目を向けると判断を誤ることにもなりかねないので、質感を評価します。
風味特性・風味のプロフィール
味覚と嗅覚から、栽培地の特徴がはっきりと感じられるかを評価します。
これが、一般のコーヒーとスペシャルティコーヒーとの一番大きな違いです。
後味の印象度
コーヒーを飲み込んだ後に口に残る風味「コーヒー感」がどんな感覚か、刺激的な嫌な感覚がにじみ出てくることなく、甘さの感覚で消えていくかを評価します。
バランス
コーヒーの風味に突出したり欠けたりするものがなく、調和がとれているかを評価します。
カップ・オブ・エクセレンス(COE)とは
スペシャルティコーヒーの発展と切っても切り離せないのが、カップ・オブ・エクセレンス(Cup of Excellence / COE)です。
カップ・オブ・エクセレンス(Cup of Excellence / COE)とは、各生産国で年に一度開催するコーヒー豆の国際的な品評会のことです。
アメリカのNPO団体「Alliance for Coffee Excellence / ACE」が主催しています。
1999年にブラジルで初めて開催され、今ではグアテマラ、ニカラグア、エルサルバドル、ホンジュラス、コロンビア、コスタリカ、ルワンダなど10ヵ国あまりのコーヒー生産国で開催されています。
カップ・オブ・エクセレンス(COE)の仕組み
年に一度、その国でスペシャルティコーヒーを栽培する生産者が、その年に収穫された自慢のコーヒー豆を出品します。
出品されたコーヒー豆のうち、国内審査員によるカッピング審査をくぐり抜けたものだけが、国際審査員による厳しいカッピング審査のステージに進みます。
その最終審査の結果、最高品質(トップ・オブ・トップ)と評価された一握りのコーヒー豆に「カップ・オブ・エクセレンス」の称号が贈られるんですよ♪
「カップ・オブ・エクセレンス」に輝いたコーヒー豆は、インターネットオークションにかけられます。
入札には国内外の輸入業者やロースターが参加でき、高値で取り引きされます。
そして、そのオークションでの売上の大半は、受賞した生産者の手に渡ります。
「カップ・オブ・エクセレンス」に業界の注目が集まり、広く普及したのは、この「オークションで販売する」という方式を採用したことが大きかったんです。
カップ・オブ・エクセレンス(COE)の功績
それまで、コーヒー豆の国際相場は低迷していく一方で、生産者のやる気もどんどん失われていました。
そんな状況では、手間ひまをかけて品質のいいコーヒー豆をつくっても高く売れる保証はないので、誰もやろうとはしませんでした。
ところが、「カップ・オブ・エクセレンス」の仕組みは、品質の高いコーヒー豆をつくれば、きちんと評価されてそれ相応の値段で売れることを示してくれました。
「カップ・オブ・エクセレンス」に選ばれれば、その農園や地域の知名度もアップします。
しかも、生産者側のメリットだけではありません。
消費者側にとっても、より美味しいコーヒー豆がどんどん市場に出回るというメリットがあります。
生産者にとっても消費者にとってもWin-Winな、こんな好循環を生み出した功績は大きいですよね!
まとめ
ここでは、スペシャリティコーヒーとその中での最高品質を決める「カップ・オブ・エクセレンス」について見てきました。
コーヒー豆生産国が、味の良し悪しよりも、見た目がよくて生産性の高い豆を求めて品種改良をしてきたことは、消費者にとって決して望ましい流れではありませんでした。
コーヒーが美味しくなれば、消費者の満足度が高まってコーヒーに対する評価も上がり、値段が高くても買いたいという心理が働きます。
消費者に高く買ってもらえれば、生産者の生活も潤います。
「コーヒーを味で評価する」スペシャルティコーヒーの台頭は、本来あるべき形に近づいてきたということでしょう。
スペシャルティコーヒーは、それぞれ味に個性があるのが売りです。
いろんなスペシャリティコーヒーを飲んでみて、あなた好みのコーヒー豆を探すのも、きっと楽しいですよ♪